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私たちの研究と治療薬開発

※ページ下部に専門用語の説明がございます

これまでにわかっていた潰瘍性大腸炎発症のしくみ

潰瘍性大腸炎は、体の防御システムである免疫反応が誤って自身の体を攻撃してしまう自己免疫疾患と考えられています。
免疫システムの誤作動によって産生される自己のたんぱく質に対する抗体※1(=自己抗体※2)が、大腸の粘膜を覆っている細胞(大腸上皮細胞※3)を攻撃する可能性が指摘されています。
しかし、どのたんぱく質が自己抗体の標的となっているのかについては、長年にわたる研究にも関わらず、明確になっていませんでした。

私たちが発見したこと

潰瘍性大腸炎における新規自己抗体の発見

私たちは長年の研究を経て、2021年に重要な発見を報告しました。潰瘍性大腸炎の患者さんの約92%が、特定のたんぱく質「インテグリンαvβ6※6」に対する自己抗体(抗インテグリンαvβ6自己抗体)を持っていることが判明しました。
驚くべきことに、この自己抗体は潰瘍性大腸炎でない人々にはほとんど見られないという事実も、私たちの研究で明らかになりました。

抗インテグリンαvβ6自己抗体による大腸上皮細胞への影響

抗インテグリンαvβ6自己抗体が大腸上皮細胞の接着に重要な役割を果たすインテグリンαvβ6とフィブロネクチン※10というたんぱく質との結合を阻害することを発見しました。

自己抗体の強さと阻害効果の関係

この自己抗体の力(=抗体価)※11が強くなるほど、阻害作用も強くなることも見出しました。

私たちが考える潰瘍性大腸炎における新たな病態仮説

私たちが発見した「抗インテグリンαvβ6自己抗体」は、大腸上皮細胞のインテグリンαvβ6と、その足場となるフィブロネクチンの結合を阻害します。
この結合阻害により大腸上皮細胞が傷害され、その結果として潰瘍が形成されて潰瘍性大腸炎の発症につながる可能性があると考えられます。

私たちの研究結果の応用と将来への展望

私たちは、「抗インテグリンαvβ6自己抗体」が潰瘍性大腸炎の発症の鍵を握っているかもしれないと考え、さらなる研究を進めています。
私たちの目標は、患者さんが薬に頼らずに快適な生活を送れる日々を実現することです。
そのために、簡単で正確な診断が可能となる診断キットの開発や、潰瘍性大腸炎を根本から治療できる薬や治療法の開発に取り組んでいます。

潰瘍性大腸炎の診断キットの開発

「抗インテグリンαvβ6自己抗体」の検出は潰瘍性大腸炎の正確な診断と病状把握に役立つ可能性があります。
この自己抗体を測定する初の診断キットを、国内トップの抗体診断薬メーカーである株式会社医学生物学研究所(MBL社)との協力、及び「国立研究開発法人日本医療研究開発機構 医療分野研究成果展開事業 産学連携医療イノベーション創出プログラム」の支援のもと開発しました。
2022年に、この診断キットが研究用試薬として利用可能になりました。2024年までに厚生労働省からの薬事承認※12を目指し、その後2025年には保険適用※13を受けて広く普及させることを目標としています。

潰瘍性大腸炎を根本から治す治療法の開発

私たちは、潰瘍性大腸炎を根本から治療する新しい治療法の開発に取り組んでいます。
この新しい治療法は、「抗インテグリンαvβ6自己抗体」を産生する特定の免疫細胞だけをターゲットにすることで、より効果的で副作用の少ない治療を実現するすることを目指しています。

ご支援のお願い

私たちの研究が実を結べば、難病である潰瘍性大腸炎の根治が現実になる可能性があります。
目標達成に向け、2025年までに有望な治療法の開発を完了し、2026年から臨床試験に着手することを計画しています。
しかし、研究開発には莫大な時間、労力、そして資金が必要です。
私たちは多くの患者さんたちの苦痛を一日も早く和らげたいと強く願っており、根本的な治療となる薬や治療法の開発に全力を尽くしています。
そのため、より多くの方々からの幅広いご支援をお願いすることにしました。
皆様のご寄付は、私たちの研究と患者さんたちの未来にとって大きな力となります。
どうか皆様のあたたかいご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

ご支援のお願いページへ

研究の進捗について

本成果は、2021年2月12日に国際学術誌「Gastroenterology」にオンライン掲載されました。

文責
京都大学消化器内科 塩川 雅広
桒田 威

専門用語集

※1 抗体
通常、抗体は免疫システムによって作られるたんぱく質で、病原体などの外来物質を識別して攻撃する役割を担います。
※2 自己抗体
体の免疫システムが誤って自身の組織や細胞を攻撃するために作られる抗体です。
※3 上皮細胞
体の表面や内臓の表面を覆う細胞で、保護や分泌、吸収などの役割を持っています。
※4 結合組織
体内のさまざまな構造を支え、結びつける役割を持つ組織です。
※5 基底膜
上皮細胞と結合組織の間に存在する薄い層で、細胞の支持や構造の維持に重要な役割を果たします。
※6 インテグリンαvβ6
インテグリンαvβ6は細胞表面にあるたんぱく質で、細胞とその周囲の組織との結合に重要な役割を果たします。
※7 クローン病
消化管に慢性的な炎症を引き起こす病気で、主な症状には腹痛、下痢、血便、体重減少などがあります。潰瘍性大腸炎と共に主要な炎症性腸疾患の一つです。
※8 感度
病気がある人を正確に病気だと判定できる検査の能力のことです。高い感度の検査は、病気の人を見逃しにくいです。
※9 特異度
ある病気でない人を正確に病気でないと判定する検査の能力のことです。高い特異度を持つ検査は、病気でない人を誤って病気だと判断することが少ないです。
※10 フィブロネクチン
上皮細胞の周りの結合組織を構成するたんぱく質の一つで、細胞の接着や組織の構造を維持するのに重要な役割を果たします。
※11 自己抗体価(力価)
自己抗体の量や活性を示す指標で、自己抗体がどれだけ強く体の組織や細胞に結合するかを表します。例えば抗インテグリンαvβ6自己抗体価が高くなると、自己抗体がインテグリンαvβ6により強力に結合することを示します。
※12 薬事承認
新しい薬や医療機器が医療現場で安全かつ効果的に使用できることを政府が公式に認めるプロセスです。この承認を得るためには、PMDA(医薬品医療機器等の安全性・有効性等を評価・監視する機関)による厳格な審査が必要です。
※13 保険適用
保険適用になると、その治療や薬の費用の一部が健康保険によってカバーされるため、患者さんの自己負担が大幅に減少します。対照的に、保険適用外の治療や薬は患者さんが全額自己負担する必要があります。
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